第8章「公開手術」


会場は先ほどまでとは性質の違うざわめきに支配されていた。

突如として乱入してきた女戦士が一転して壇上で物言わぬ人形と化したのだ。

先ほどまでの威勢は消え失せ、その瞳には輝きが失われている。

虚ろな表情からは感情の発露は感じられない。



「皆様! ご心配には及びません! サージェスのエージェントは我々ダークシャドウが完全に掌握しています。どうぞ、安心して席にお戻りください」



シズカの言葉に観客たちは戸惑いながらも席に戻っていく。

だが、いまだ半信半疑の者も多いのか、その数はまばらだ。

無理もない。いきなりのアクシデントに動揺は大きい。

シズカはそれを見越していたように菜月の方へ振り向く。

菜月はそれに小さく頷くと、呆然と立ち尽くすさくらへ向き直る。

「さくらさん…みんなに心配ないって教えてあげて?」

菜月の問いかけにさくらもまた頷くと、アクセルラーを手にシズカへ歩み寄る。



「私のアクセルラーをお渡しします…」



さくらは抑揚のない口調で言葉を紡いだ。

シズカの前に膝をつき、うな垂れて傅く。

頭を垂れたまま恭しく両手で自らの通信手段であり戦闘手段でもあるツールを敵に献上する。

これ以上ない敗北宣言の格好だった。

「いい娘ちゃんだねぇ〜〜ボウケンピンク。これであんたはあたしたちに危害を加えることが出来なくなっちゃったんだねぇ♪」

「――――……………………」
さくらは無言のままだ。

既に潜在意識に刷り込まれた暗示はさくらの精神を支配していた。



「舐めろ」

シズカは抑えた声色で一言だけ呟いた。
その意味するところに考えが至るや、さくらの行動は素早かった。

即座にシズカの足元にうずくまり、その足を両手で包むとその端正な顔を近づけていった。
「――――――…」

そのまま四つんばいの格好でシズカの靴を舐め上げる。

丁寧に、懸命に。

まるで飼い犬が主人にするように。その惨めな姿に会場から冷笑が漏れる。

ようやくざわつきを抑えた会場の様子を把握すると、シズカはさくらに命じた。

「もう、いいわ…あんたが充分操られてるってことはお客様方に理解して頂けたはずよ…後は仕上げと行きますか!」



シズカの手招きを合図に舞台袖から分娩台のような巨大な機械が運ばれてくる。

犬化手術では必需品といえる専用の手術台だ。



「さくらさん…服を脱いで」



四つんばいのままのさくらに歩み寄り、顎を持ち上げ言い聞かせるように菜月が言う。

「…―――はい…」

小さく答えると、さくらは虚ろな瞳のままステージ上で服を脱いでいった。

さくらは徐に胸元へ手をやると、ゆっくりとピンクのジャケットを脱ぎ始めた。

周りのスタッフ達もさくらの行動を止め様ともしない。

衆目に晒されながら、さくらはスカートを下ろし、白いシャツを脱ぎ、下着姿へ変わる。

少し肌寒いが、“これからの生活”を思えば我慢せねばならないだろう。

ややあってからブーツを脱ぎ、ブラを取り去る。

おお、というため息にも似た驚嘆の声が会場から聞こえてくる。

そしてそのまま二つの双丘を晒してみせる。

「さくらさん、ちゃっちゃっと脱いでよ♪」

半笑いで菜月が促すと、さくらは

「はい…申し訳ありません――…」

と抑揚のない声で答えた。

申し訳なさそうにパンティを下ろし、薄い茂みに覆われた恥部が露出する。

そのまま、紺のハイソックスを脱いで裸足となる。

床はひんやりと冷たい。

「準備できたみたい…行こっ、さくらさん!」

さくらは促されるままに手術台に身を委ねていく。

身体を大の字に固定され、四肢にはそれぞれ手枷足枷が取り付けられた。



「会場にお集まりの皆様の中にはこのSGSのエージェントにより、多大な損失を出された方も多いことでしょう…当社もこの女…ボウケンピンクこと西堀さくらには多大なる損失を蒙っております…そこで、この場で彼女への制裁をこめて“犬化”の手術を行いたいと存じます!!」

シズカの宣言に会場中が大きくどよめく。

ややあって、シズカの提案に賛同の拍手喝采が送られる。

観客たちの反応に満面の笑みを浮かべながら、シズカは指をこすり、ぱちんと乾いた音を鳴らした。

ブゥーン…という機械の作動音と共にさくらの足首を拘束する部位が持ち上がり、左右に大きく

両脚が広げられていく。同時に混濁に沈んでいたさくらの意識が唐突に回復した。



「え…あ…いやっ!」



身を捩じらせて拘束から逃れようとするが、枷はびくともしない。

同時に両腕は足とは反対の方向に強制的に万歳するように伸びきった状態で固定された。

さくらは丁度観客達に自らの膣口と菊門を見せ付ける形で両脚を限界まで開ききる格好となる。

「止めてください! 菜月!!」

必死で叫ぶが抵抗もむなしく、首に背もたれから展開した首輪が嵌められ、全ての部位が固定されるとさくらは全く動けなくなってしまった。

観客からどっと笑いが起こる。



「大丈夫…なんにも分からなくなるよ…なぁ〜〜〜〜んにもね♪」



菜月がさくらの寝る手術台の起動スイッチを入れる。

「いやっ! いやっっ!! いやですっっ!!」

あれをつけられたら、自分は―――――…

さくらの右腕にまとわりつくように手術台の背後から伸びたマニュピレーターが赤外線スキャンで切断対象のスキャニングを開始する。

それは、さくらにとって死刑宣告に等しいグリーンマイルとなった。

無慈悲な機械はさくらの身体の精密さ、歪みまでを正確に計算した上でのシミュレーションを終えると、いよいよ実際の切断へ移行していった。









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