|
||||||||||
|
||||||||||
第100話 聖子 女の子の憧れ?
とうとう日曜日がやってきた・・・今日は二光さんやハルカさんたちとコンサートに行く日だ。 二光さんにコンサートには可愛い服を着てくるように言われた・・・セイコちゃんに負けないようなって言われても・・・オレそんなの持ってないし・・・だからオレが持ってるうちでは一番フリルが付いた可愛いのを着てきたつもりだ・・・おかげで恥ずかしくてたまらない! 白いワンピースでスカートには二段のレースのフリル・・・上半身も三段のフリルになっていて、肩が全部出ている・・・だからなんだか落っこちちゃいそうで、常に肩が出過ぎていないか気になってしまう・・・腰は黒いリボンで絞める形だ・・・ レナとお店で見たとき、可愛くて二人で盛り上がってしまい、つい買っちゃったヤツだ・・・雑誌の撮影とかならこれくらい平気だけど、さすがに普段に着る勇気がなくてまだ着ないでいた・・・なんか・・パーティーでもあったら・・・なんて思ってたのに・・まさかこんなに早くこの服を着る機会が来るとは思わなかった・・・ コンサートがあるのはマリンメッセ・・・福岡の施設ではどちらかといえば新しい方だ・・・オレはまだ行ったことがない・・・ 名前に“マリン”とついているだけあって海の近くらしい・・・ 天神から臨時のシャトルバスに乗ろうとすると、バス停にはオレと同様コンサートに行くらしい人たちが並んでいた・・・ほとんどが30代か40代の女の人だ・・・みんなそれなりにお洒落してるけど・・やっぱりオレみたいなフリフリの服を着た人はいないみたいだ・・・失敗したかなぁ・・・いつもみたいなシフォンワンピにしておけば良かった・・・シフォンワンピだって十分可愛いし・・・ マリンメッセに着いてバスから降りると、会場の前はセイコちゃんのファンでいっぱいだった。オレはあたりを眺めてみて少しだけホッとした・・・フリフリの人も結構いる! なかには本物のセイコちゃんかと見紛うような人までいる! でもいくらなんでもやりすぎじゃないかなぁ・・・ファンに囲まれて撮影会みたいになってるし・・・ オレは二光さんやハルカさんが来るのを待たなければいけない・・チケットはまだもらってないから一人では会場の中に入れないのだ・・・なんか落ちつかない・・・だって二光さんたちが来たときにすぐわかる所にいなきゃいけないけど・・こんな恰好で目立ってないか気になる・・・気のせいかも知れないけど、オレのこと見ながら通り過ぎていく人もいるような・・・こんな恰好してるからかな・・・ するとオレと同じ歳くらいの女の子が二人で近づいてくる・・・ま・・まさかオレじゃないよなぁ・・・ 「・・あの・・春日ユウさんじゃないですか・・・?」 あ・・バレちゃった・・・ 「・・ぁ・・はぃ・・そうですけど・・・」 ・・・雑誌の時とはお化粧違う感じにしてたのにな・・・本当はお化粧しなきゃいいんだけど・・よそ行きの時はやっぱりお化粧したいし・・・それに・・もしもお化粧してない時に“春日ユウ”だとバレてしまったらそれこそ恥ずかしいし・・・素顔の“春日ユウ”なんて見せられない! 「きゃー!! やっぱりユウちゃんよ!」 「・・!」 ・・ビ・・ビックリしたぁ・・・急に大きな声出すんだもん・・・ 「わたしたち春日さんファンなんです!写メ撮ってもらってもいいですか?!」 「・・あ・・い・・いいですけど・・・」 ・・どうしよう・・・オレまで撮影会みたいになっちゃった・・・ 「春日さんも聖子さんのファンなの?」 「・・あ・・えっと・・わたしは知り合いに誘われて・・・」 「じゃぁ聖子さんのコンサート初めてなんですかぁ?」 「・・う・・うん・・初めて・・・」 「うわぁ! それじゃすっごく感動すると思いますよ! ねぇ!」 となりのコに同意を求めてワイワイやってる・・・なんか同じくらいの歳だけどウチの学校の生徒とは、だいぶノリが違うなぁ・・・やっぱりウチって今でも少しはお嬢様学校って感じなのかな・・・ 二光さんたち早く来てくれないかなぁ・・・オレひとりじゃ、どうしたらいいかわからないよ・・・ ?・・・向こうの方から大きめのワゴン車がやって来る・・・なんかハデな車だ・・・もしかして? すると向こうもオレに気がついたようで、ワゴン車を運転してる人が手を振った・・・二光さんだ! 助手席ではハルカさんも手を振っている! オレも思わず手を振っていた・・・ ワゴン車はオレの前に停まるとドアがスライドして、中からニューハーフ・・・っていうかオカマと言った方がピッタリな感じの人もいるけど・・・そんな・・たぶんハルカさんと同じお店“みつまめ姫”の人たちがドヤドヤ降りてきた・・・ス・・スゴイ・・・みんなスゴイドレス着てる・・・これに比べたらオレの恰好なんて大したことないような気さえしてくる・・・ そういえば・・この人たち・・お花見にもドレスで来る人たちだもんなぁ・・・すっかり忘れてた・・・ 「それじゃぁ、駐車場に停めてくるから待っててね〜!」 二光さんはワゴン車を停めに行った・・・ 「ユウちゃ〜ん! ひさしぶり〜〜!」 「ひゃっ!」 急に大きな人が抱きついてきてビックリした・・・ 「・・ぁ・・お・・お花見のときの・・・?」 「あらぁ! ユウちゃんあたしのこと憶えててくれたの〜〜! うれし〜!」 ・・むぎゅぅ・・・作り物のおっぱい大きすぎだ・・・息が出来ないよぉ・・・ 「ちょっとあんた〜 またユウちゃん潰してるでしょ〜〜 離れなさ〜い!」 2、3人が止めてくれて、なんとか助かった・・・ 「・・はぁ・・・苦しかった・・・」 「ごめんねユウちゃん、大丈夫だった?」 「あ、ハルカさん・・・こ・・こんにちは・・・今日は誘って下さってありがとうございました・・・」 「もうっ!ユウちゃんったら他人行儀ねぇ! でも行儀がいい娘は好きよ。」 「・・・あの・・この人たち・・ユウちゃんの知り合い?」 !!・・・さっきのコたちまだ居たんだ・・・どうしよう・・・普通の女子高生の“春日ユウ”にニューハーフの友達がいたらヘンに思われるかなぁ・・・ 「・・あ・・えっと・・・この人たちは・・・」 オレがどう説明したらいいか口ごもっているとハルカさんが女の子たちに言ってくれた・・・ 「あなたたちも二光って知ってるでしょう? ユウちゃんは二光にメイクを習ってるの! あたしたちは二光と友達だからユウちゃんとも知り合いなのよ〜!」 「すご〜い! ユウちゃんってメイク上手だと思ったら、ちゃんと習ってるんですね!」 「そりゃそうよ! ユウちゃんはモデルさんなんだから習ってるわよ〜!」 ・・・ハルカさん・・女の子を丸め込むの上手いなぁ・・・もうすっかり仲良しな感じになってるし・・・女の子って意外にニューハーフの人には抵抗ないって聞いたことあるけど・・本当なんだぁ・・・ オレは女の子たちと離れてからハルカさんにお礼を言った。 「あの・・さっきはありがとうございました・・・」 「ユウちゃん、あれくらいのことサラッと言えなきゃニューハーフなんてやってけないわよ! ウソでも出まかせでもペラペラ言えるようにならなきゃ!」 「・・はぃ・・・」 ・・・まったくだ・・・オレはニューハーフじゃないけど・・・バレちゃいけないという点ではニューハーフより大変かも知れない・・・オレは一生、男だとバレないように生きていかなきゃいけないのだ・・・いっそ本当にニューハーフになった方が良いのだろうか・・・? 「お待たせ〜!」 車を停めに行った二光さんが戻ってきた。 「それじゃ行こう、ユウちゃん!」 ハルカさんはオレの手をとって会場とは違う方に歩いていく・・・ 「あの・・どこ行くんですか?」 「あれよ! 聖子ちゃん応援するならウチワ買わなきゃ!」 「・・う・・うちわ・・・?」 「聖子ちゃんウチワがないと“フレッシュ、フレッシュ”が地味になっちゃうでしょう?」 「・・・・・」 “フレッシュ、フレッシュ”? オレは聖子ちゃんのことは全然知らないから、何のことだかさっぱりわからない・・・ 会場の横の広場には体育祭の時のようなテントが張られていて、そこでコンサートのパンフレットやポスターや聖子ちゃんグッズが売られていた・・・すごく混んでたけどニューハーフ軍団が入って行くと、さすがに回りが空く・・・女の人の集団パワーもスゴイけど、そんな中でもニューハーフ軍団のパワーは負けてない・・・そもそも見た目がスゴイし・・・一緒にいるのがハズカシくなってくる・・・オレまでニューハーフと思われないか心配だ・・・ ハルカさんはパンフレットとか色々な物と一緒に買ったウチワをひとつオレにくれた・・・ 「あ・・わたし・・・」 オレが慌ててお財布を出そうとすると、オレの手を押さえて言った。 「いいから、あげるわよ!」 「・・あ・・すみません・・・」 ・・なんか悪いなぁ・・・コンサートのお金も出してないのに・・・ 「綾乃! モール持ってきた?」 「あります〜、リャンメンも持ってきましたよ〜!」 ・・・モール? リャンメン? 「ほら、ユウちゃんもウチワのまわりにリャンメンつけて!」 オレはハルカさんがやってるのを見ながら、ウチワのまわりにグルッと両面テープをつけた・・・ 「出来たらこうやってモールを付けるのよ!」 そう言ってハルカさんはウチワのまわりに、パーティーの飾り付けなんかに使う金色のモールを巻いていった・・・オレも見よう見まねでモールを巻いた・・・ 「目立ってる方が聖子ちゃんがこっちを見てくれるからね!」 あ・・そういうことか・・・たしかに沢山のお客さんがいるんだろうから、目立ってないと見てくれないのかもなぁ・・・ お揃いのウチワの準備も整うとオレたちニューハーフ軍団は、入口で手荷物の検査なんかをしてから会場に入った。 マリンメッセはすごく広かった・・・オレたちの席はアリーナの真ん中あたりだ・・・お客さんはほとんどが女の人で、男はカップル以外ではほとんどいない・・・ みんなオシャレしてて、なかにはテレビで観た昔の聖子ちゃんばりにブリブリな服を着てる人もいるけど、ニューハーフ軍団はそんな中でも異常に目立っている・・・こんだけ目立ってれば、ウチワにモールなんか付けなくても十分に聖子ちゃんの目を引きそうだ・・・ オレはハルカさんと二光さんに挟まれて居心地が悪いったらない・・・ 「・・あ・・あの・・ちょっとトイレ・・・」 オレは理由をつけてホールから外に出た・・・まあ、トイレに行きたいのもウソじゃないけど・・・ 女の子は早めにトイレに行っておかないと、こんな時はトイレが混むから大変なのだ・・・最初から女の子なら、それが普通だと思ってるんだろうけど・・・オレは男だった経験があるから長い時間待たされるのは堪らないのだ・・・ トイレに行くと、ここマリンメッセのトイレは大きくて驚いた! 普通は男より女の方がトイレに時間がかかるのにも関わらず、トイレのスペースは同じだから、個室しかない女性用は一度にできる人数が男性用より少なくなってしまう・・・これは男のころには考えもしなかったが、女の子になってみて痛切に感じたことのひとつだった・・・でもここはスペースも大きいうえ、トイレ自体が男性用の3倍くらいもある! だから全然混んでなかった・・・トイレに並ばなくていいなんて感激だ! ここを設計した人は女の子のことを良くわかってる! オレがトイレに感激して席に戻ると、もうすぐ始まる時間になっていた。“カメラ、録音機材の使用禁止”や“携帯電話の電源はお切り下さい”などのアナウンスが流れだす・・・オレも慌てて携帯の電源を切った・・・ 場内が暗くなってレーザー光線が光り出すと、会場のあちこちから“セイコー”という野太い声がしだした・・・一見女の人ばかりみたいだけど男もそれなりにいるらしい・・・親衛隊ってやつだろうか・・・ そんなことを考えていると、“せーの”という掛け声に合わせてニューハーフ軍団も“聖子コール”を始めたからたまらない・・・すっごい大きな声だ・・・声もほとんど男に戻ってるし・・・挟まれたオレはどうすれば良いんだろう・・・・ 「ほら! ユウちゃんも声出して!」 「え!・・えっと・・・」 ・・うぅ・・恥ずかしいよぉ・・・ 「・・せ・・いこぉ・・・」 オレ女の子になってから、そんなに大声なんて出したこと無いし・・・だいいちオレはファンでもないのにぃ・・・でも場内はどんどん声が大きくなっていく・・・もう女の人も負けていない・・・ “ セイコー! セイコー!! ” コールと拍手で割れんばかりだ・・・会場が一体になった時、レーザー光線が当っていた幕が落ちると、スポットライトの中に聖子さんがいた! 場内のお客さんは、その瞬間に一気に立ち上がって、オレも遅れて立ち上がった・・・ ヘッドマイクを付けた聖子さんは檻みたいなモノの中・・・と思ったら、真ん中の棒につかまって踊りだした・・・これって・・・ポールダンスってヤツ?・・・なんかオレが思ってた聖子さんのイメージとずいぶん違うな・・・こんな色っぽいのもやるんだ・・・衣装もすごくセクシーだし・・・ “ だれも知らないこと ふたりだけの秘めごとなんて ゾクゾクしてくるわ身体中が不思議な気分・・・ ” オレを挟んだニューハーフ軍団も、腰をクネクネして一緒に踊り出す・・・ノリノリだ・・・考えてみたらニューハーフの人ってこんなダンスもするのかも知れないなぁ・・・オレはニューハーフパブなんて行ったことないから良く知らないけど、テレビでそういうのを観たことあるような気がする・・・だって・・パブってたぶんお酒飲んでエッチなことするところだもん・・・ “ 妖しい気分になるの 魔法をかけて〜 ” 歌が終って聖子さんが舞台にいなくなっても、まだ曲は続いていてダンサーの人たちが踊っている・・・聖子さんがいないと会場は少しトーンダウンした感じだけど、ニューハーフ軍団だけはまだハイテンションだ・・・理由はたぶんダンサーの男の人だろう・・・たしかに・・ちょっとカッコイイかも・・・ 「ユウちゃん、聖子ちゃんはねぇ、衣装替えの間もこうやって楽しませてくれるのよ! あたしたちもダンスするからすごく勉強になるのよ!」 ハルカさんは踊りながらそう教えてくれた・・・そうなんだぁ・・・ただ男の人がカッコイイからってだけで盛り上がってるワケじゃないんだなぁ・・・ ・・でも・・オレもべつに聖子さんのファンじゃないから、ダンスだけでも十分楽しい・・・こんなの観たことないし・・・それにまわりがノリノリだと、なんだかオレもつられて楽しくなってくる・・・ 次に聖子さんが出て来た時は黒いパンツスタイルだった・・・そしてダンサーの男の人や女の人と踊る・・・聖子さんって踊りも上手なんだな・・・こんなに踊れる人だとは思わなかった・・・ 次に舞台が変わると、しとやかな感じでピンクのネグリジェのような衣装・・・ダンスも激しいものから一転バレエに風に・・・ “ あなたはどこで何をしているの毎晩想ってる 電話のベルが鳴るたびアナタかと胸が震える・・・ ” ・・・うぅ・・・なんかせつない歌・・・オレが純平からのメールが来ないか待ってる時の気持ちにかぶっちゃうなぁ・・・ 聖子さんのバラードって女の子の気持ちであふれている・・・別れた彼のことを考える女の子のことを歌った曲を聞いていると、オレも切ない気持ちになってしまう・・・ 何曲かのバラードの後は、今度はお姫様のようなスカートが大きく広がった空色の素敵なドレス・・・ “ 最後のデートなら明るく決めたいわ 無理して笑えば空から降るのよ涙・・・ ” 明るい曲調だけど別れの歌・・・無理して明るく振る舞う女の子の気持ちを思うと切なくなっちゃう・・・ “ 雨のコニーアイランド 大人でいようねと言った・・・悲しい片思い・・・ ” ・・・きっとこの男の人は女の子の気持ちなんてわかってないんだろうな・・・なんか聖子さんの歌って・・言葉が直接入ってくる・・・ 曲が終ってあいさつ・・・聖子さんは歌は素敵だけど、しゃべるとすごく気さくな感じの人だった。ファンのみんなの声にも応えてくれる。地元の福岡だから久留米弁でしゃべってくれたりして・・・なんかしゃべり方がなんとなく弘子の叔母さんに似てる気がする・・・ちょっと親近感を持ってしまった・・・ 何曲か知らない歌・・・ハルカさんの話では聖子さんが若い頃の歌らしい・・・でもそんな古い感じじゃないなぁ・・・そしてその後は『赤いスイートピー』・・・これならオレも知ってる・・だって有名だもん。 「それでは皆さんも一緒に、大きな声で歌って下さいね・・・」 “ 春色の汽車に乗って 海に連れて行ってよ 煙草の匂いのシャツに そっと寄り添うから・・・ ” ・・・みんな歌ってるから、オレも思わず口ずさんでしまう・・・ “ なぜ・・知り合った日から半年すぎても あなたって手も握らない・・・ ” ・・・半年も手を握らないなんて・・・この人どういうつもりなんだろう・・・女の子の片思いなのかも知れないけど・・・それにしたって・・・・ 今度のドレスは白くてスカートがせまくなった細いやつ・・・これも素敵だな・・・ “ あなたに逢いたくて・・あなたに逢いたくて・・・ ” この歌も聴いたことある・・・眠れない夜は別れた彼の温もりを思い出して、そっと瞳を閉じてみるなんて・・・なんかすごくせつない歌だな・・・ “ アルバムの最後の色褪せた押し花が 海辺に誘うの・・・同じベンチであなたがいないだけ 赤いスイートピーの花が咲く季節がまた来るのよ・・・ ” 「・・あれ? この歌って・・・」 「ユウちゃん聴いたことないでしょう? 『続・赤いスイートピー』っていうのよ。」 ハルカさんがそう教えてくれた・・・オレは『赤いスイートピー』に続編があったなんて知らなかった・・・ “ もしも強引にこの腕を つかんで生きてくれたら続いてるの?・・・あの日に戻れるならすべて無くしていい・・・ ” 「・・・・・」 “ ・・・もしも我がままを言わずに 生きれば運命は違ったの・・・ ” ・・・う〜ん・・・なんか大人の歌だな・・・オレには良くわからない・・・ ・・・運命なんて・・・オレには・・・・ ・・なんかこういう歌を聴くと・・・オレが女の子として幸せになれるのか不安になってくる・・・オレって男の人から見て、どんな女の子なんだろう・・・? 聖子さんが舞台から消えて、しばらくはダンサーの紹介なんかが続いた・・・この後、舞台は暗転・・・そしてまた“聖子コール”が・・・音楽が始まるとみんな一斉に立ち上がった! 舞台のカーテンが開いて、大きな“SEIKO”という文字の前に出て来た聖子さんを見た瞬間、オレたちは思わず叫んでいた・・・ 「かわいい〜!!」 聖子さんは髪をショートにして、赤に白いチエックが入ったミニスカートのワンピース! 赤いソックスにはフリルがついてる・・・すっごく可愛いぃ・・・こんな恰好も似合うなんてスゴイ・・・とてもかあさんより年上とは思えない・・・ 「ほら、ユウちゃんウチワの出番よ!」 「あ、は・・はぃ・・」 オレは慌てて飾りを付けたウチワを手に持って、みんなと一緒に応援した・・・ “ Going back 溢れるくらい 希望と夢に満ちてた そんな私に戻れるはず素敵にOncs Again・・・ ” 歌が終ってお客さんたちの“かわいい”という声に照れてる聖子さん・・・でもホント可愛い・・・昔はすごく可愛かったって聞いたことあるけど、今でも十分可愛いくて素敵だと思う・・・ 「セッイコちゃ〜ん!!」 歌が終るとニューハーフ軍団が一斉に叫んだからたまらない・・・聖子さんも思わず気にとまっても不思議じゃない・・・ “ あら? またいらしたの? 二光さんは武道館にもいらして下さって・・・” 聖子さんは声のした方を探してオレたちを見つけると、悪戯っぽくそう言った・・・そっか・・もう何回も来てるから・・・それにさすがに二光さんは有名人だから知ってるんだ・・・ 聖子さんに声をかけられるとニューハーフ軍団も派手なウチワを振って大もりあがり・・・そんなことしたら他のお客さんにまで目立っちゃうよぉ・・・ “ みなさんすっごくお綺麗で・・・でも二光さんの横のコは本当の女の子みたいね? ” !・・オレのことだ・・・オレは恥ずかしくて思わずウチワで顔を隠した・・・だってお客さんまで振り向いてオレのこと見るんだもん・・・ 「聖子ちゃん! このコは本当の女子高生なのよ〜!」 “ あら、どうりで可愛らしいと思ったわ ” ・・うぅ・・・聖子さんがオレのこと可愛いなんて・・・恥かしくて顔が熱くなっちゃう・・・ “ それではいつの間にやら始まりました リクエストコーナーの時間がやってまいりました! ” 「リクエスト?」 「聖子ちゃんがみんなのリクエストに応えて歌ってくれるのよ!」 「へえ〜・・・」 ・・・みんなこの時を待ってたように、歌ってほしい歌のタイトルを書いた紙を頭の上に掲げてる・・・ “ 大切なあなた・・・未来の花嫁・・・天国のキッス・・・硝子のプリズム・・・・どれがいい? ” オレは『天国のキッス』はCMで流れてるから知ってるけど・・他のは知らないな・・・ “ じゃあ・・『天国のキッス』と『未来の花嫁』ね! ” 『未来の花嫁』ってのはオレは知らないけど・・・みんなは良く知ってる曲みたいだ・・・すごく喜んでる・・・ “ ・・・空き缶ひきずって あのコ彼と車に乗るの・・・あなたはネクタイを弛めながら退屈な顔・・・わたしたちの場合ゴールは遠そうね・・・ ” ・・・なんか若村先生の結婚式の時のこと思い出すなぁ・・・ “ プロポーズはまだなの? ねえ、その気はあるの? ケーキにナイフいつ入れるの?・・・友達から名前が変わるニュース聞くと なぜか複雑・・・微妙なの ” ・・・なんか可愛い歌・・・聖子さんの歌に出てくる女の子ってみんな可愛いなぁ・・・オレもそんな女の子になれるかなぁ・・・ “ Kiss in blue heaven 乗せて行ってね ダーリン ” オレもみんなと一緒に歌った・・・知ってるとこだけだけど・・・オレも知ってたらもっと歌えたのに・・・ コンサートは終盤に入りヒットメドレー・・・ハルカさんの話では聖子さんがアイドルの頃の歌・・・どれも可愛い歌ばかりだ! “ あ〜 わたしの恋は 南の風に乗って走るわ・・・ ” オレもハルカさんや二光さんがやってるのを見ながら、同じようにウチワで応援した。 “ ピュアピュアリップス 気持ちはYES・・・ ” やっぱりウチワがあると応援しやすい・・・ “ 最後はこれ! 夏の扉! 髪を切った私に ” 「セイコ!!」 “ フレッシュ、フレッシュ、フレッシュ! 夏の扉を開けて・・・ ” ・・・あ! フレッシュ、フレッシュってコレだったのか! “ フレッシュ、フレッシュ、フレッシュ! 夏の扉を開けて裸のふたり包んでくれる・・・ ” 最後の歌を歌い終えた聖子さんは、ひとしきり挨拶をすると手を振りながら舞台のセリを降りていった・・・ほどなく会場は“ アンコール ”の声に包まれた・・・“ アンコール ”は次第に時間が経つと“ セイココール ”に変わっていく・・・ “ セイコ! セイコ!セイコ! ” 出て来た聖子さんは黄色い衣装・・・スカートがフワフワでひよこみたいだ! “ 君のことを 胸に思えば どんな事でも出来る気がする・・・愛することは全てを変える 信じることが未来へ続く・・・・太陽が真っ赤に燃えている 明日への希望を照らしてく・・・手をとって明日へ歩いてこう ” なんか力強い歌・・・こっちまでウチワを振る手に力が入っちゃう・・・ “ 最後はこれ! 20th Party! ” “ 裸足で駆け出してこう光る渚に パラソルを空に投げ出しジーンズさえ脱いで・・・泳ぎましょう珊瑚礁の揺れる島へ・・・ ” 「・・・・・?」 “ そしてあなた秘密の青い岬まで 連れていって私を マジメにキスして ” ・・・これって色んな歌の歌詞が混じってるみたいだ・・・なんかおもしろい・・・どういう歌なんだろう・・・ 「ユウちゃん、この歌は聖子ちゃんが20周年の時に作ってくれた歌なのよ! みんなの思いでの歌なの!」 ・・・そうなんだ・・・だから色んな歌の歌詞が入ってるんだなぁ・・・ みんなで思いでの歌で盛り上がって、コンサートは終った・・・ - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - コンサートの余韻も消えないまま、ホールから出てくると、そこで聖子さんのCDやDVDを売っていた・・・オレはなんとなく気になって、ふと立ち止まった・・・ 「なになに? ユウちゃんCD買うの?」 「ぁ・・えっと・・・ちょっと聞いてみたいなって思って・・・でもどれ買ったらいいかわからないな・・・」 「何か気に入った曲ないの?」 「・・えっと・・・そうだ・・あのリクエストの時の結婚式の・・・」 「あっ! 『未来の花嫁』ね! 良い曲よねぇ〜 聖子ちゃんファンならみんな大好きな曲よ!」 ハルカさんがそう言うと、二光さんもみんなも“うんうん”とうなずいている・・・ 「ユウちゃん目が高いわぁ! あの曲はね・・これに収録されてるわよ!」 そう言って渡されたのは『Candy』というアルバムだった・・・ 「・・キ・・キャン・・・」 「キャンディーよ! 聖子ちゃんのアルバムの中でも良い曲ばっかり入ってるのよ〜」 「・・そ・・そうなんですか・・・」 ・・キャンディーか・・・可愛い名前だなぁ・・・ 「・・じゃぁ・・・これにしようなか・・・」 「そうしなさい! あたしが買ってあげるわ!」 「え・・いいですよ・・わたしおこづかいもらって来たから・・・」 オレは急いで断った・・・だって連れて来てもらったうえCDまで買ってもらったんじゃ申し訳ない・・・ウチワも買ってもらったし・・・ 「いいじゃない! あたしとユウちゃんの友情の印よ〜!」 「・・う・・・」 ・・そんなふうに言われると・・・なんだか断りにくい・・・ 「ね? あたしに買わせて?」 「・・はぃ・・・」 ここはオレが折れるしかなさそうだ・・・オレは高校生・・・ハルカさんから見ればオレなんて、まだ子供なのかも知れない・・・ 「はい!」 ハルカさんは袋に入れてもらったCDを渡してくれた・・・ 「あ・・ありがとうございます。」 オレはこれをハルカさんからのプレゼントだと思うことにした・・・プレゼントだったら喜んでもらった方がいいと思う。 オレは思った・・・聖子さんってすごく可愛くて女らしいけど、おしゃべりすると何処か面白くて男の子っぽいところがあったりして・・・そういうところが女の子だけじゃなくニューハーフの人にも人気がある理由ではないだろうか? ずっと見てると、なんだか自分が聖子さんになったみたいな気持ちになるんだと思う・・・ ・・だって・・・オレもちょっとだけ・・あんなドレス着てみたいなって思ったくらいだもん・・・ - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 今回は、私が網膜剥離になってしまい、ずいぶん時間がかかってしまって申し訳ありませんでした。まだまだ万全とは言えない状態なので、今後も無理のない範囲で書いていきたいと思っています。 この100話はコンサート全体を文章で書くという無茶な話だったので、全然上手く書けてなくてすみません。もし興味がある方は発売中のDVD Seiko Matsuda Concert Tour 2009「My Precious Songs」 をご覧いただくとより楽しめる内容となっております(笑)ちなみに去年のDVDは福岡のコンサートを収録しているので、久留米弁でしゃべりまくる聖子さんがご覧いただけます。興味がある方はどうぞ。 |
||||||||||
|
||||||||||
|